くちゃくちゃさん

わたしは1人で外食することが結構多い。
ラーメンも牛丼も定食も焼肉も平気だ。
「カフェなら1人で入れるけど、ラーメンとか牛丼は無理」という女子が結構いるが、カフェでコーヒーを飲むのとラーメン屋でラーメンを食べるのとではそんなに違うのだろうか?
カフェでコーヒーを飲んでる姿はイケてるけど、牛丼屋で牛丼を食べる姿はイケてないのだろうか?
実はわたしは女子の気持ちが全く分からない女子なので、女子の気持ちを考えてもあまり分からない。

とりあえずわたしはひとり飯が好きだ。
だいたい1人で飲食店に入るとカウンターに通されることが多い。
そもそもラーメン屋や牛丼屋はカウンターしかないお店も多い。
混雑時は赤の他人が隣の席に座ることもよくある。
幸いわたしは体型がガリガリなので、狭いと感じることはあまりない。
1人で好きなようにさっと食べられるひとり飯は楽チンでいい。

ただ1つだけ、たまに究極にツライことがある。
それは、隣に座った赤の他人が「くちゃくちゃさん」だったときだ。
「くちゃくちゃさん」とはわたしがたった今名付けたあだ名である。
「くちゃくちゃと音を立てて食事をする人」のこと。
ひとり飯中にくちゃくちゃさんと遭遇すると、そりゃあもう食べ物の味なんて感じなくなり、食べ終わるとお腹はいっぱいだけど満足感は全くないというツライ食事になる。

このくちゃくちゃさん、グループで食事をしているときならまだマシなのだ。
喋る声でくちゃくちゃが消されるし、会話に集中すれば気にならない場合もある。

だが、ひとり飯では逃れることができない。
イヤホンをしながら食べる、電話しながら食べるなんて行儀が悪すぎる。
いろんなことを考えて気を紛らせば紛らせるほど、くちゃくちゃさんが気になる。
気づいてもらおうと咳払いやため息をしたとて、くちゃくちゃさんは自分がくちゃくちゃさんだという自覚がない人が多いので、意味がない。
ただただ耐えるしかない。

昔、バイト先で賄いの焼き魚を食べていたときのこと。
わたしは焼き魚の皮と血合いの部分が苦手で、避けて食べていた。
するとそれを見た上司が「お前、どんな育ち方したんだよ」と言った。
確かに皮と血合いの部分を避けて食べるのはお行儀がいいとは言えない。
でも、それは育ちの問題ではなく好き嫌いの問題ではないだろうか?
その上司は、とてつもないくちゃくちゃさんだったのだ。
「いやいや、お前がどんな育ち方したんだよ」と言ってやりたかった。

わたしの親は食事の仕方にはわりと厳しい方だった。
お箸の持ち方もきちんと教わったし、肘をついたら怒られた。それに食べるときは口を閉じなさいとくちゃくちゃさんにならない為の在り方も教わった。
だから世の中のくちゃくちゃさんはきっとご両親の育て方の問題なのかなと思っていた。

まだわたしが相手の気持ちをそこまで考えずに何でも発言していた10代の頃、くちゃくちゃさん予備軍(※くちゃくちゃさん予備軍=生粋のくちゃくちゃさんほどではない、くちゃくちゃさん)だった1人の友人に「くちゃくちゃ言わずに食べた方がいいよ、口閉じて食べればくちゃくちゃ言わないよ」と言ったことがある。
すると、友人が「俺は慢性鼻炎だから口を閉じて食べると苦しくなる!」と言った。

とても申し訳ない気持ちになった。
鼻炎で鼻がつまっているのだから、そりゃ口を閉じると息ができず、苦しくなる。
噛む時間が長い、例えばホルモンなんて食べてしまったものなら1人息止め選手権が始まり、食べ終わる頃には苦しくて苦しくてたまらないだろう。

つまり、やむを得ない理由でくちゃくちゃさんになっている人もいるということ。
だからあまり過敏にならず、個性だと受け止める広い心も必要かもしれない。

しかし、今この文章を集中して書けない状態にある。
わたしは今、1人でカフェにいる。
隣に座っている男性は、時折くちゃくちゃと音を立てながらサンドイッチを食べている。

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Ton.Sakota